プラットフォームごとの Chat ボットの実装を抽象化する Chat SDK
Chat SDK は TypeScript で記述されたライブラリで、1 つのコードベースで複数のチャットプラットフォームに対応するチャットボットを開発できるようになります。イベント型アーキテクチャを採用しており、メンション, メッセージ, リアクション, スラッシュコマンドなどのイベントに型安全なハンドラーを定義できます。この記事では実際に Chat SDK を使用して、Slack 向けのチャットボットを実装する方法を紹介します。
生成 AI の普及に伴い、チャット型 UI を構築する機会が増えた開発者も多いのではないでしょうか。Slack や Microsoft Teams、Discord などのチャットコミュニケーションツールは AI と対話するインターフェイスとしても優れており、これらのプラットフォーム向けにチャットボットを開発するケースも増えています。しかし、各プラットフォームはそれぞれ独自の API を提供しているため、複数のプラットフォームに対応するチャットボットを開発するには、API ごとに個別の実装が必要になります。
この問題を解決するために、Vercel から Chat SDK がリリースされました。Chat SDK は TypeScript で記述されたライブラリで、1 つのコードベースで複数のチャットプラットフォームに対応するチャットボットを開発できるようになります。イベント型アーキテクチャを採用しており、メンション, メッセージ, リアクション, スラッシュコマンドなどのイベントに型安全なハンドラーを定義できます。
この記事では実際に Chat SDK を使用して、Slack 向けのチャットボットを実装する方法を紹介します。
Chat ボットプロジェクトの作成
Slack 向けのチャットボットのために POST リクエストを受け取るエンドポイントを提供する必要があります。ここでは Hono を使用して、簡単なサーバーを構築します。
npm init hono@latest chat-bot-example次に、Chat SDK と Slack アダプター, インメモリに状態を保存するためのアダプターをインストールします。
npm install chat @chat-adapter/slack @chat-adapter/state-memorySlack アプリを作成する
Slack へのメッセージの送受信を行うためには、Slack アプリを作成して、必要な権限を付与する必要があります。https://api.slack.com/apps にアクセスして「Create An App」ボタンをクリックして Slack アプリを作成しましょう。

ダイアログが表示されたら「From a manifest」を選択します。

ワークスペースを選択した後、マニフェストを入力する画面が表示されるので、上記のタブから「YAML」を選択して、以下の内容を入力します。
display_information:
name: My Bot
description: A bot built with Chat SDK
features:
bot_user:
display_name: My Bot
always_online: true
oauth_config:
scopes:
bot:
- app_mentions:read
- channels:history
- channels:read
- chat:write
- groups:history
- groups:read
- im:history
- im:read
- mpim:history
- mpim:read
- reactions:read
- reactions:write
- users:read
settings:
event_subscriptions:
request_url: https://your-domain.com/api/webhooks/slack
bot_events:
- app_mention
- message.channels
- message.groups
- message.im
- message.mpim
interactivity:
is_enabled: true
request_url: https://your-domain.com/api/webhooks/slack
org_deploy_enabled: false
socket_mode_enabled: false
token_rotation_enabled: falsehttps://your-domain.com の部分は後から作成するサーバーの URL に置き換えるので、今は適当な URL で問題ありません。

最後に bot の権限を確認した後「Create」ボタンをクリックすると Slack アプリが作成されます。

Slack アプリが作成されたら、左側のメニューから「OAuth & Permissions」を選択して、「Install to <ワークスペース名>」ボタンをクリックして Slack アプリをワークスペースにインストールします。ワークスペースにインストールした後 xoxb- で始まる Bot User OAuth Token を控えておきましょう。

続いて、左側のメニューから「Basic Information」を選択して Signing Secret を控えておきます。

取得した Bot User OAuth Token と Signing Secret は .env ファイルに保存しておきます。
SLACK_BOT_TOKEN=xoxb-your-bot-token
SLACK_SIGNING_SECRET=your-signing-secretChat SDK を使用してチャットボットを実装する
それでは Chat SDK を使用して、初めての Slack チャットボットを実装してみましょう。まずは src/bot.ts ファイルを作成して、以下のコードを追加します。
import { Chat } from "chat";
import { createSlackAdapter } from "@chat-adapter/slack";
import { createMemoryState } from "@chat-adapter/state-memory";
export const bot = new Chat({
userName: "mybot",
adapters: {
// 環境変数 SLACK_BOT_TOKEN と SLACK_SIGNING_SECRET を自動で読み込む
slack: createSlackAdapter(),
},
state: createMemoryState(),
});
// メンションに反応する
bot.onNewMention(async (thread) => {
await thread.subscribe();
await thread.post("Hello! I am a bot.");
});
// 購読したスレッドに新しいメッセージが投稿されたときに反応する
bot.onSubscribedMessage(async (thread, message) => {
await thread.post(`You said: ${message.text}`);
});Chat クラスのインスタンスを作成し、そのインスタンスに対してイベントハンドラーを定義するというシンプルな構造になっています。createSlackAdapter 関数は環境変数から Slack の認証情報を自動で読み込むため、.env ファイルに保存した認証情報をそのまま使用できます。
bot.onNewMention ハンドラーは @My Bot とメンションされたときに呼び出され、thread.post メソッドを使用して返信を投稿します。このとき thread.subscribe() を呼び出してスレッドを購読することで、そのスレッドに新しいメッセージが投稿されたときに bot.onSubscribedMessage ハンドラーが呼び出されるようになります。
次に、src/index.ts ファイルに Webhook エンドポイントを追加します。
import { serve } from "@hono/node-server";
import { Hono } from "hono";
import { bot } from "./bot.js";
const app = new Hono();
// bot が対応しているプラットフォームを型として定義
type Platform = keyof typeof bot.webhooks;
app.post("/api/webhooks/:platform", async (c) => {
// パスパラメータからプラットフォームを取得
const platform = c.req.param("platform");
// プラットフォームごとのハンドラを取得
const handler = bot.webhooks[platform as Platform];
if (!handler) {
return c.text("Unsupported platform", 400);
}
// ハンドラにリクエストを渡して処理してもらう
return handler(c.req.raw);
});
serve(
{
fetch: app.fetch,
port: 3000,
},
(info) => {
console.log(`Server is running on http://localhost:${info.port}`);
},
);/api/webhooks/:platform エンドポイントを定義し、パスパラメータからプラットフォームを取得して、対応するハンドラーにリクエストを渡しています。これで Slack からのリクエストを処理できるようになりました。
ローカルでテストを行うためには、ngrok などのツールを使用してローカルサーバーをインターネットに公開する必要があります。ngrok をインストールして、以下のコマンドでローカルサーバーを公開しましょう。
npm run devngrok http 3000ngrok を起動すると、https://your-domain.com の部分に置き換えるべき URL が表示されるので、その URL を Slack アプリのイベントサブスクリプションとインタラクティビティのリクエスト URL に設定します。左メニューの「Event Subscriptions」を選択して、Request URL を ngrok の URL に置き換えた後に「Verified ✔」と表示されれば設定は完了です。

実際に Slack 上で @My Bot hello とメンションしてみましょう。すると、ボットが「Hello! I am a bot.」と返信し、そのスレッドに新しいメッセージを投稿すると「You said: <投稿したメッセージ>」と返信することが確認できます。

インタラクティブな UI で返答する
Chat SDK では JSX を使用してボタンやカードといったインタラクティブな UI を返すこともできます。JSX を扱えるように src/bot.ts を src/bot.tsx にリネームしておきましょう。
mv src/bot.ts src/bot.tsxまた tsconfig.json ファイルの compilerOptions に以下の設定を追加して、JSX を有効にします。
{
"compilerOptions": {
"jsx": "react-jsx",
"jsxImportSource": "chat"
}
}<Card> コンポーネントを使用してインタラクティブなメッセージを構築していきます。<Card> コンポーネントはプラットフォームごとにそれぞれ以下のような UI に変換されます。
| プラットフォーム | 変換後の UI |
|---|---|
| Slack | Block Kit |
| Microsoft Teams | Adaptive Cards |
| Discord | Embeds |
| Google Chat | Card |
import { Chat, Card, CardText, Button, Actions, Select, SelectOption, Divider } from "chat";
// 省略...
bot.onNewMention(async (thread) => {
await thread.subscribe();
await thread.post(
<Card title="Welcome to my bot!">
{/* CardText はマークダウンをサポート */}
<CardText>
Hello! I am a **bot**. I can respond to your _messages_ and button
clicks.
</CardText>
<Divider />
<Actions>
<Button id="primary" style="primary">
Click me
</Button>
<Select
id="select-fruit"
label="Your favorite fruit"
onChange={async (value) =>
await thread.post(`You selected: ${value}`)
}
>
<SelectOption label="🍎" value="apple" />
<SelectOption label="🍌" value="banana" />
<SelectOption label="🍊" value="orange" />
</Select>
</Actions>
</Card>,
);
});
// 対応する id のアクションが実行されたときに反応する
bot.onAction("primary", async (event) => {
await event.thread.post("You clicked the button!");
});
bot.onAction("select-fruit", async (event) => {
await event.thread.post(`You selected: ${event.value}`);
});thread.post() に JSX を渡すことで、Slack の Block Kit に変換されてリッチな UI を構築できます。<Button> や <Select> といったインタラクティブなコンポーネントでは一意の id を指定し、その id に対応するアクションが実行されたときに bot.onAction で定義したハンドラーが呼び出されるようになっています。
実際に Slack 上で @My Bot を呼び出してみると、カード形式のリッチなメッセージが返され、ボタンをクリックしたりセレクトボックスから選択したりすると、それぞれに対応する返信が返されることが確認できます。

ストリーミング処理
AI とのやり取りはレスポンスの生成に時間がかかることが多いため、ユーザーの体験を向上させるためにストリーミングでレスポンスを返すのが一般的です。Chat SDK はあらゆるものが AsyncIterable で扱えるように設計されているため、ストリーミング処理も簡単に実装できます。Slack の場合はネイティブのストリーミング API を使用してリアルタイム更新を実現できますが、ストリーミング API をサポートしていない他のプラットフォームの場合では投稿と編集を繰り返すことでストリーミングのような体験を実現しています。このフォールバックを使用している場合はレート制限に注意が必要です。Chat クラスのインスタンスを作成するときに streamingUpdateIntervalMs オプションでストリーミングの更新間隔を指定できます。
export const bot = new Chat({
streamingUpdateIntervalMs: 500, // ストリーミングの更新間隔を指定(ミリ秒)
});AI SDK を使用して、AI のレスポンスをストリーミングで返す例を見てみましょう。AI SDK とプロバイダーをインストールします。
npm install ai @ai-sdk/anthropicClaude の API キーを環境変数 ANTHROPIC_API_KEY に保存しておきましょう。
ANTHROPIC_API_KEY=your-anthropic-api-keyAI SDK の streamText 関数で AI のレスポンスをストリーミングで受け取りながら、thread.post() に渡すことで、ユーザーは AI のレスポンスが生成される過程をリアルタイムで見ることができます。
import { anthropic } from '@ai-sdk/anthropic';
// メンションに反応する
bot.onNewMention(async (thread, message) => {
const result = streamText({
model: anthropic("claude-haiku-4-5"),
prompt: message.text,
});
await thread.post(result.textStream);
});スレッドの会話履歴を元に AI と対話したい場合には、thread.adapter.fetchMessages() メソッドで過去のメッセージを取得して、その内容をプロンプトに渡すことができます。
bot.onSubscribedMessage(async (thread) => {
const fetchResult = await thread.adapter.fetchMessages(thread.id, {
limit: 20,
});
const history = fetchResult.messages
.filter((msg) => msg.text.trim())
.map((msg) => ({
role: msg.author.isMe ? ("assistant" as const) : ("user" as const),
content: msg.text,
}));
const result = streamText({
model: anthropic("claude-haiku-4-5"),
prompt: [...history],
});
await thread.post(result.textStream);
});
まとめ
- Chat SDK を使用することで、1 つのコードベースで複数のチャットプラットフォームに対応するチャットボットを開発できる。
- Chat SDK はイベント型アーキテクチャを採用しており、メンション, メッセージ, リアクション, スラッシュコマンドなどのイベントに型安全なハンドラーを定義できる。
bot.onNewMentionハンドラーで bot がメンションされたときの処理を定義し、thread.subscribe()を呼び出すことで、そのスレッドに新しいメッセージが投稿されたときにbot.onSubscribedMessageハンドラーが呼び出されるようになる。thread.post()メソッドを使用して返信を投稿できる。thread.post()に JSX を渡すことで、プラットフォームごとに適切なリッチ UI を構築できる。- Chat SDK はあらゆるものが
AsyncIterableで扱えるように設計されているため、AI のレスポンスをストリーミングで返すことも簡単に実装できる。ストリーミング API をサポートしていないプラットフォームの場合では投稿と編集を繰り返すことでストリーミングのような体験を実現している。
